君のブログに恋をして〜パワハラ編

男のエンジニア信者ぶりに事務員は確認した。
「技術者のスキルで対応できるのですか?」
と。
時計の針は16時半を過ぎていた。
こんな時間からあのエンジニアのところに連れていくなんて。
それも本人の意思確認もせずに。
男はドヤ顏で言った。
「エンジニアが対応できると言っているから大丈夫!」
否応無しに男に連れ出される技術者の後ろ姿に不安を感じた。

(以前、この会社で営業をしていた代表はこんなに強引でなかったのに。
この男の強引さは肌に合わない。
この会社も変わった)
技術者は嫌々、男に連れ出されたのだ。

エンジニアが作業している東の海システム会社は、歩いて10分ほどのところにある。
元来が新しい現場にすぐに馴染めるタイプではない技術者にとって、前触れもなくいきなりの作業場所変更に戸惑いは隠せなかった。
エンジニアが言うようにスキル的にはやってやれんことはない内容ではあったが、技術者はその気になれなかった。
多少のスキル不足は感じるものの気持ちが前向きになれば出来ないことはない作業であった。

技術者はこのエンジニアのもと、この男にヤイヤイ言われ、作業をすることを考えるだけで、気持ちが萎えてきた。
普段ならこなせる作業がこなせない。
胸が締め付けられる思いをしながら、その日の作業はなんとか終わらせた。
20時を回っていた。

技術者は帰り道、男に電話をした。
この現場で続ける自信がないことを伝えた。
男は自分が崇めているエンジニアの顔に泥を塗ることになるであろう、技術者の言動にキレたのだ。

「そんなんやったら、明日から来んでよろしいわ!」

男は営業社員であって、他の社員に解雇を言い渡せる立場ではないのである。
例え、会社の経営者であっても「明日から来んでいい」と解雇はできないのである。

翌朝、男は事務員に伝えた。
技術者は昨日付で退職と伝えたのだ。
理由は、技術者のやる気の無さ。
「ほんま、あきませんわ」と嘆く姿に事務員は薄ら寒さを感じた。
入社して1ヶ月になるかならないかの社員である。
平気で他人の人生を振り回す男に嫌悪感以外のなにも感じなかった。

パワハラという言葉が頭をよぎる。
事務員は入社の手続きしたばかりの社会保険の、すぐに退職の手続きしなければならない状況を恨んだ。
昨夜、何があったのかは知らないが、客観的に見て、技術者だけに非があるとは思えなかった。
男の浅はかな強引さに振り回された技術者が気の毒になるばかりだった。

妻に虐げられている男は無意識に自分より弱い者に強気に出てしまうのだ。
男もまた家庭内ハラスメントの被害者なのかもしれない。