君のブログに恋をして〜秘密のお金編

男が最初に手にしたのは16万円ほどであった。
東の海システム会社の営業支援で得る数万円に比べると大きな金額である。
900円の整髪料ひとつ買うのにも、鬼のような妻に断りを入れなければならない男にとっては、大金である。

会社の経費を散散し飲み歩いた結果、メタボ指導が入るようになった男である。
妻から命じられたダイエットは一向に成果は出ない。
夜のランニングをして帰っても、汗のかき具合で、妻にウソつき呼ばわりをされる。
挙句、平手打ちまで浴びさせられ、メガネのツルが壊れたりもした。
そんな妻に16万円のことなど話す気になれなかった。
妻には秘密のお金である。

男は自分の会社が長年、取引しているトモゾー方舟会社の社長と懇意になっていた。
男の会社からはトモゾー方舟会社が持っている案件に数名参画している。
そのトモゾー方舟会社にかるてるの営業として技術者を提案した。
トモゾー方舟会社の社長は技術者として現場に出ている。
そこでリーダーとしてプロジェクトに参画している。
技術者不足の折、男が提案してくる技術者はありがたかった。
それがどういう商流であろうと、トモゾー方舟会社の社長は頓着しなかった。
いや、男の口吻からおおかたの察しはついていた。
男の指示通り、かるてるとの口座を開いた。
新規の契約を結んだのだ。

男がかるてるの営業を始めた最初の月、トモゾー方舟会社を含めて、5件の成約を得た。
かるてるのボンクラ営業マンではありえない芸当である。
男がおこなった営業分の利益から10%がかるてるの儲けとなる。
SESの業態上、かるてるの売上高は増えたが利益は2万円にも満たない。
男に加担するのには割りの合わない金額である。

男は調子に乗ってボンクラ営業マンとのLINEでこう豪語した。

「トモゾー方舟会社の社長にも東の海システム会社の営業にも俺は信頼されている。俺が持っていく技術者は容易に成約させられる」

「あまり派手にやらない方がいいですよ」
とボンクラ営業マンは釘を刺した。

社会常識的に考えると男の行為は褒められたものではない。
しかし、このSES業界では、お小遣い稼ぎで他社の営業をする輩は少なからず存在していた。
さすがに大っぴらには行われることはなかった。

ボンクラ営業マンは男の行為の片棒を担いでいる自分の立場を危惧し、男に釘を刺したのだ。
人の話に耳を傾ける男ではなかった。
妻に内緒で作った銀行口座。
その通帳の残高を見るのが楽しくて仕方ない男であった。

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