君のブログに恋をして〜 二足のわらじ編

男は家に帰るとき、妻に”帰るLINE”をしなければならなかった。
男の帰りに合わせて晩ご飯を用意してくれるなどは淡い期待である。
ただただ、鬼のような妻に管理されているだけである。
地下鉄のホームから、今から乗る帰路の行程を乗換アプリで知らせるように命じられていた。

壁に貼られた家事スケジュール確認とダイエット日記。
元来、自分に甘い男である。
仕事を理由にそれらをサボるのである。
妻からは
「毎晩、毎晩、面談や打ち合わせがあるはずがない!早く帰ってこい!こっちはパートから帰って子どもの世話もしている!」
と、散々詰られるのである。

あの900円の整髪料ひとつさえ、”経費”と称され、日々、妻へ報告しなければならないのである。
ひとたび忘れると、
「経費の精算はどうなっている?!」
と罵声のLINEが送られてくる。
それを既読スルーすると妻の怒りはとどまることがなくなる。
男が会社の営業経費を散財し、あげく不正の領収書まで手を染めるようになったのは、鬼のような妻も一因なのかもしれない。
浅はかな夫婦は悪のスパイラルから逃れられなくなっていくのである。

かるてるから得た16万円。
妻の知らない16万円は男を加速させていった。
会社のGoogleカレンダーには直行直帰を記しても、妻のように詰られることはなかった。
それをいいことに、かるてるの営業で会う取引先の打ち合わせや情報交換も記していた。
すでに会社と取引している相手に、かるてるの営業を持ちかけているのである、Googleカレンダーに記される社名になんら違和感はない。
男はしたり顔で、業務時間内にかるてるの営業をこなしていった。
頑張れば頑張っただけ目に見えてその成果を手に入れられるのである。
次の月に男の口座には20万円が上乗せされた。
かるてるからの振り込まれた金額である。
前月の契約の継続分と新規分である。
二足のわらじ、男は面白くて仕方なかった。

男は会社から貸与されているノートPCを鞄に忍ばせて、営業業務に従事していた。
情報交換や打ち合わせ時に、これ見よがしにノートPCを広げるとき、男の自尊心はくすぐられた。
そのノートPCにはかるてるの営業の足跡がしっかり記されている。
家に帰るときもそのノートPCを持ち帰っていた。
会社に置いて帰るわけにはいかなかった。

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